ウミショウブ 西表島の植物

トチガガミ科 ウミショウブ属 ウミショウブ

 ウミショウブは海草です。海に生える草で、海藻ではありません。このため、花が咲いて実がなります。でも、ウミショウブの花は、植物界ではほかにはないような花を咲かせて受粉させるシステムを持つ、世にも不思議な花なのです。トチカガミ科は淡水や海水中に生える多年草の植物です。ウミショウブもそのひとつですが、ウミショウブは世界に1属しかない珍しい植物です。インド洋から太平洋に分布し、日本では西表島や石垣島に大きなコロニーがあります。

 ウミショウブは、夏の大潮の昼間の干潮時に開花します。大潮は満月と新月の時の1~2日間に起こる現象です。6月下旬から9月ころまで、年に6日程度しか開花は起こりません。天気が晴れていないと開花も見ることはできません。ウミショウブの開花を見るのはなかなか難しいのです。

 雄花はウミショウブの開花は今まで何度も見ています。今年も、それを目的に西表島に行きました。しかし、問題はアオウミガメの食害です。なんとウミショウブは、ウミガメに食べ尽くされかけていたのです。ウミガメによる食害は数年前から始まりました。2018年に西表島に行ったとき、西表島西部のウミショウブは、ウミガメに食べ尽くされて、ほとんど花も咲かせる個体はありませんでした。しかしまだ健全なウミショウブの群落があるという情報を聞いて、今年2023年に出かけたのです。

 ウミショウブは雌雄異株です。つまり雄株には雄花が咲き、雌株には雌花が咲きます。ウミショウブの花の構造はそれぞれ複雑で、雄花と雌花は同じ植物とは思えないほど違います。昼ころ、雄花の苞は水中の海底付近で花開きます。そして、苞が開くと、ウミショウブの花は酸素の泡の中に入ってぷくぷくっと水面に出てきます。海面に出て酸素の泡が割れると、たぶん海面で花が開き、雄しべを上に、花弁と萼片が反り返り、水面に浮かびます。ウミショウブの花は水をはじきますが、花弁と萼片の外側は親水性があります。反り返っで丸くなった花弁と萼片は海水面で水を掴みます。雄しべも球形なので、雪だるまのような形になります。高さは1.5mm程度、幅は0.7mm程度の小さな花です。海面に浮かんだ雄花は、風に吹かれてス――――っと海面を走ります。 

 最初は雄花だけですが、干潮時間になって、潮が引いて、浅くなると花茎で繋がった雌花は水面に出てきます。水中では酸素の泡に包まれていますが、水面に出ると3枚の花弁は開きます。花弁の内側は撥水性能が高く、その力で水に浮いています。花弁の内側は多数のひだがあります。やがてそこに雄花が落ちていきます。雌花は干潮が終わり潮が満ちてくると、雄花を咥え込んだまま、花を閉じながら水面下に潜っていきます。そして受粉が完了するという手の込んだ受粉システムです。

 午後になると、このドラマチックなシーンは終了し、ただ、まったく何もなかったような広々とした水面と、受粉できずに無駄に花を咲かせた雄花がただ浮いています。雄花は午後遅くなると、黄土色に変わり、水面で立っていられずに倒れます。

 ウミショウブは本当に不思議でおもしろい花です。

ウミショウブ
Enhalus acoroides
長細いのはウミショウブの葉
白いのはウミショウブの雄花

Canon EOS R
Canon RF16mm F2.8 STM
ウミショウブ
雄花の花の構造
花の構造がよくわかります。
雪ダルマの上半分が
雄しべで葯が割れて、
花粉の粒が見えます。
下半分が花弁と萼片。
花弁尾内側は微細な突起があって
海水をはじいているようです。
花が咲くと、
それぞれの花がちぎれて、
風任せで動いて受粉する。
不思議な花です。

Canon EOS R
Canon MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト
LightPix Labs FlashQ Q20II

ウミショウブ雄株
タケノコの皮のようなもの(苞)が
パカッと開いています。
間に見える白いのが雄花です。
たくさんの雄花が入っていて、
酸素の泡とともに海面に浮かんできます。
手前の葉がウミショウブの葉です。
右端の茶色の葉は去年の枯れた葉。
枯れても筋が残っています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA TG-4
ウミショウブ雌花
花弁の内側はひだがあります。

花弁の先には雄花がひっかっかっています。
波で揺れているうちに
雄花はだんだん
雌花の内側に落ちていきます。
花弁の右下にある
茶色の毛だらけのものが苞です。

Canon EOS R
Canon RF100mm F2.8 L MACRO IS USM

山もいいけど海もいいなあ。