「岩波少年文庫のあゆみ」若菜晃子編著

岩波書店 岩波少年文庫 「別冊2」

 私の尊敬する作家の若菜晃子さんの著作です。今度は岩波少年文庫という壮大なテーマに挑戦しています。ほんと大変ですね。「岩波少年文庫のあゆみ」は岩波少年文庫から出版されました。子供のころに本を読んでいた皆さんに強くおすすめの本です。

 私は子供のころから本が大好きです。自然が好きになったきっかけは「ツバメ号とアマゾン号」で始まる「アーサーランサム全集」を読んでからです。動物好きになったのは「ドリトル先生アフリカ行き」から始まる「ドリトル先生シリーズ」を読んでから、冒険好きになったのは「ライオンと魔女」から始まる「ナルニア国シリーズ」を読んでからでしょう。このように私の人生に大きな影響を与えてきたのは岩波の本の本です。

 この本は、ただの歴史本でも、ただの資料本でもありません。岩波少年文庫物語としたほうがよいほどの内容です。岩波少年文庫のあゆみの最初の一歩は、戦前から構想され、戦後に作り始められた岩波少年文庫が、石井桃子さんをはじめとする関係者によって、どんなに強烈な努力をもって作られていったかが、その現場にいるかのような熱量を持って書かれています。

 次に来るのが、岩波少年文庫の本の紹介です。定番の本を紹介していますが、読んでいなければ読みたくなる本ばかりです。その後の怒涛の「もうひとつの名作選」は若菜さんが独自で選んだ名作の紹介コーナーです。まるで講談を聞くようにリズミカルなのに圧倒的な情報量を、短い文章にぎゅうぎゅうに詰め込んだ、必読の部分です。

 続いて「挿絵の魅力」「翻訳の妙味」はへ~~~、なるほど~、そうだったのか~~と思わせられること請け合いです。本の楽しみがより深くなります。あの有名な「長くつ下のピッピ」の挿絵が・・・そうだったのか~。翻訳って大事なのね・・・。

 植物を観察するにも、ただ見て「きれいだな」と感じるよりも、この花はこのような意図をもってこんなシステムで咲いている「きれいなだけでなくおもしろいな」と感じるほうが深い興味と感動があるでしょう。本を読むにも、ただ読むだけでなく、挿絵や翻訳家などに知識と興味があったほうが、より深く本を楽しめると思います。

 「岩波少年文庫のあゆみ」は、少年向けの文庫本というよりも、子供のころ本を読んでいた人向けの本です。もちろん子供が読んで、もっと「岩波少年文庫」を読んでみたいと思うのが一番ですが。

 この本のおかげで最近50冊程度の岩波少年文庫を読みました。「二人のロッテ」「ゆかいなホーマー君」「バンビ」「星の王子さま」「ニールスのふしぎなな旅」「エミールと探偵たち」「ワンダブック」「とぶ船」「小ネズミのピーク」「竜のきば」「点子ちゃんとアントン」「長い冬」「ジャータカ物語」「名探偵カッレ君」「フランダースの犬」「大草原の小さな町」「古事記物語」「白いタカ」などなど。最新刊では「ベルリン1919」「ベルリン1933」「ベルリン1945」。全部書いてみようとしたら多すぎて書ききれませんでした。

 読んいてで思ったのは、少年文庫という名前で子供向けに書かれていますが、名作は大人が読んでもおもしろいということです。「モモ」は時間に追われて生きる大人への警鐘です。最近読んだベルリン三部作は人類共通の愚かさ、残酷さ、全体の空気、戦争への道というものの恐ろしさを、これでもかというくらい書き重ねています。岩波少年文庫は大量の本を出版しています。全部読むのはあまりに大変。この「岩波少年文庫のあゆみ」を、読書の山の案内人として読んでみてはいかがでしょうか。

「岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020」若菜晃子 編著 岩波書店

岩波少年文庫のあゆみ
若菜晃子 編著