今回、長野県では数多くのランが見られました。中でも「信濃の国」の名前がついている特徴的なのはシナノショウキランと、ここで紹介するシナノコアツモリソウの両方を見ることができたのがよかったです。シナノコアツモリソウは、どの図鑑にもまだ載っていません(たぶん)。それもそのはず、2017年に発表されたばかりの新品種です。簡単に言うとコアツモリソウの色彩変異。コアツモリソウは唇弁によく目立つ暗紅紫色の脈がありますが、シナノコアツモリソウにはそれがありません。唇弁は緑色または淡緑色をしています。
シナノコアツモリソウ(Cypripedium debile Rchb. f. f.shinanoense Suetsugu & Shitara)を新品種発表した、末次健司さん、設楽拓人さんの英文の論文(植物研究雑誌 第 92 巻 第 2 号)を見せていただきました。論文に載った写真を見ると、側花弁の付け根には少し暗紅紫色の斑点がわずかに見えますが、それ以外はほとんど緑色です。私が見た十数個の個体の多くは暗紅紫色がわずかにある個体ですが、外からはまったく見られず、緑色一色に見える個体もいくつかありました。
大きさと形は、シナノコアツモリソウとコアツモリソウに違いはありません。両方とも、とても小さなランで、下を向いて咲くところもそっくりです。花の長さは1㎝ちょっとです。アツモリソウを小さくしたような花です。
コアツモリソウの花は以前のブログ「フィンデルン」(ラン! ラン! ラン! コアツモリソウ、ジガバチソウ)2011年に紹介しています。10年前の記事ですが、よかったら見てください。唇弁に顕著な暗紅紫色の脈があります。写真では唇弁は下にありますが、野生状態では花はひっくり返っています。
末次健司さん、設楽拓人さんの英文の論文によると、コアツモリソウの唇弁にある暗紫色の脈はキノコにあるひだに擬態しているとのことです。またキノコに似た匂いを出しているとのことなのですが、現場で確認できなかったのが残念です。ちなみに英語の論文を必死で訳した後に、日本語で要旨が書かれているのに気が付きました。
インターネットでシナノコアツモリソウを調べていると、「コアツモリソウのアルビノ」「コアツモリソウの白化品種」と書かれているものもありますが、これは間違いです。唇弁に暗紫色の脈がないだけで、白化ではありません。